診療・治療

Treatment

咽頭(声帯を含む)の病気

喉頭がん

大部分は声帯とその周囲に起こります。早くから声が嗄れるので、声帯にできたがんは早期に発見できます。たいてい放射線治療(抗がん剤と併用することもあります)で治ります。ただ、治療に2ヶ月近くかかるのが欠点です。声帯にできたごく小さながんは、レーザーで切除できます(動画-1)。この方法で治療できると数日の入院でがんが治ります。

【動画-1】 初期の喉頭がんのレーザー治療(57歳、女性) ※注:音が出ます

  • 治療前
  • 治療後5年半

良性の病気

声帯ポリープ

いろんな大きさのポリープができます。症状もちょっと引っかかる程度から高度の嗄声まで様々です。手術で切除して治します。(動画-2)

【動画-2】 左声帯ポリープ(37歳、男性) ※注:音が出ます

  • 治療前
  • 治療後1ヶ月

ポリープ様声帯

両側の声帯が水膨れのように腫れてきます。ガラガラした低い声になります。タバコが原因ですので、禁煙してからでないと手術をしても再発します。(写真-1)

【写真-1】 両側ポリープ様声帯

両側とも声帯全体が風船のように腫れている(矢印部分)

声帯結節

小学生と中年女性に多い病気です。保育士、学校の先生など声をよく使う職業の方にも多いです。たいてい、音声治療で改善します。(写真-2)

【写真-2】 9歳男児に生じた声帯結節(矢印部分)

良性の腫瘍

喉頭乳頭腫

乳幼児期に発症する型と成人に発症する型があり、どちらもヒト乳頭腫ウィルスが原因です。小児型は再発しやすいとされています。成人型は再発を繰り返すと、がん化することがあるとされています。いずれも経口的にレーザー手術を行います。(写真-3)

【写真-3】

  • 治療前 左声帯に生じた喉頭乳頭腫(6歳、男性)
  • 治療後 炭酸ガスレーザーで腫瘍を切除

声帯の麻痺

①声帯麻痺の症状

声帯に行く神経(迷走神経、反回神経)(図-1)が傷害されて、声帯が痩せて動かなくなります。甲状腺、食道、心臓・大動脈の手術後に起こることが多くあります。20%前後の方は原因がはっきりせず、特発性麻痺と呼ばれます。甲状腺、食道、肺のがんや脳血管障害・脳動脈瘤破裂によって起こることもありますので、まず、麻痺の原因を調べて原因になった病気の治療を行うことが大事です。

【図-1】 迷走神経と反回神経

一側声帯の麻痺

片方の声帯が麻痺しますが、反対側の声帯は麻痺がない状態です。声が出ない、かすれる(動画-3)、長く話すと息切れしたり体がしびれたような感じがします(図-2)。他の神経の麻痺が重なるとむせが激しくなって食事をとれなくなることがあります(図-3)。

【動画-3】 一側声帯麻痺(反回神経麻痺)の声 ※注:音が出ます

右声帯麻痺のために、息漏れが激しく高度の声嗄れ。
  • 【図-2】 体のしびれ(長い時間話しすぎた時)
  • 【図-3】 飲水時の激しいむせ

両側声帯の麻痺

両側の声帯とも麻痺します。高度の声嗄れになるときと、声はよく出るけれど体を動かすと息苦しくなる時があります(図-4)。日常生活で息苦しいときは、空気の通り道を広げる治療が必要です。

【図-4】 息を吸いにくい状態

②声帯麻痺(いわゆる反回神経麻痺)の治療

一側声帯の麻痺(一側反回神経麻痺)

麻痺がおこっても自然に症状が軽くなることがありますので、しばらく(半年ほど)経過をみます。改善のないときや改善しても不十分なときは、手術をして声をよくします。局所麻酔で甲状軟骨形成術(図-5)を行うときと、全身麻酔で麻痺した声帯を正中に動かし(披裂軟骨内転術)(図-6)、さらに神経を声帯に移植する方法(図-7)があります。手術前後の声帯と音声を聞いてください。(動画-4)

  • 【甲状軟骨形成術】
    【図-5】 一側声帯麻痺による嗄声を改善する手術
  • 【披裂軟骨内転術】
    【図-6】 一側声帯麻痺による嗄声を改善する手術
  • 【神経筋弁移植術】
    【図-7】 一側声帯麻痺による嗄声を改善する手術

【動画-4】 一側声帯の麻痺(一側反回神経麻痺) ※注:音が出ます

  • 治療前 右声帯が麻痺して動かない。
    声は息漏れが激しく、高度の嗄声である。
  • 治療後5年半 右声帯を正中に移動させ(披裂軟骨内転術)さらに声帯に神経を移植する手術(神経筋弁移植術)を行った。声は麻痺発症前の患者自身の声に戻った。

両側声帯の麻痺(両側反回神経麻痺)

声帯が両側とも正中で動かなくなると呼吸困難になります。気管切開術を行われることが多いのですが、当科では可能であれば気管切開口を閉鎖できるように、声帯を外側に移動する手術を行います。(写真-4)

【写真-4】 右声帯(白矢印部分)を外側に移動させる手術

  • 治療前 声帯が両側とも正中に固定して声帯の隙が狭くなって息がしにくい状態。
  • 治療後 声帯の隙間を広げることで息がしやすくなった状態。

けいれん性発声障害

1.けいれん性発声障害の症状

発声中に声帯が強く閉じてしまうために、声が詰まったり、とぎれたり、ふるえたりして、しぼり出すような声になってしまう「内転型」と、逆に、発声中に声帯が開いてしまって声が抜けてしまう「外転型」があります。この病気の95%は「内転型」です。高いピッチで話すと症状が軽くなることが多いようです。どちらの型も声が滑らかに出ないので日常会話や声を使う仕事に支障をきたします。

けいれん性発声障害とよく似た症状をきたす病気に、音声振戦症(おんせいしんせんしょう)、過緊張性発声障害、吃音(きつおん)、心因性発声障害があります。これらの障害は耳鼻科医の中でもまだ広くは知られていないので、声の障害を専門とする耳鼻咽喉科を受診して正しい診断を受けてください。

【図-1】 声が詰まってしゃべりにくい状態

2.内転型けいれん性発声障害の治療

①ボトックス注射

ボトックスという薬を頸から声帯の筋肉に注射することで声帯の閉鎖を軽減する方法です。注射直後は声帯筋の麻痺のために声がかすれますが、しばらくするとかすれが改善し、詰まりのない声を出せるようになります。ただ、薬の効果は約3 ヶ月続きませんので効果が切れてくると症状が再燃します。そのため、年に数回の注射を繰り返す必要があります。

ボトックスは一種の神経毒なので、「講習を受けた医師で、本剤の安全性及び有効性を十分理解し、高度な解剖学的知識、筋電図測定技術及び本剤の施注手技に関する十分な知識・経験のある医師が行うこと」とされています。2018 年5 月から保険適用されました。

②チタンブリッジを用いた「甲状軟骨形成術2型」

発声時に声帯が強く内転(内側に閉じること)しても声が詰まらないように甲状軟骨(喉頭の軟骨)を縦に切開し、声帯と軟骨の付着部を軟骨ごと外側に広げて固定する手術手技で、半永久的な効果を期待できる方法です。

局所麻酔で、のど仏のあたりで水平に3cm皮膚を切開して手術をします。手術中に声を出してもらって最適な状態に調節します。ただ、皮膚を切開するので若い女性は気になると思いますが、術後半年から1年くらいたつとあまり目立たなくなります。手術後は声帯が腫れることがあるため、1週間ほど声を出さないでおく(沈黙療法)必要があります。

日本で開発された方法で2017年12月に薬事承認され2018年6月から保険適用されました。一定の基準を満たした病院で、基準を満たした医師が手術を行うことになっています。

熊本県でその基準を満たしているのは、2020年1月時点では朝日野総合病院耳鼻咽喉科だけです。

【図-2】 チタンブリッジを用いた「甲状軟骨形成術2 型」

③声帯筋を切除する方法

口の中から声帯を切開して筋肉を切除することで声の詰まりをなくす方法です。手術の効果は長期間続きます。ただ、全身麻酔で行うのでチタンブリッジを用いた「甲状軟骨形成術2型」のように声を聴きながら調節することはできません。

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